「もうすぐ悠真も帰ってくると思うから」

佐原のお母さんにそう言われてドキッとする。


「さっき海月ちゃん来てるわよって、メールしたのよ。いつもロクに返事も返さないのに【すぐ帰る】だって。普段もこれだけ聞き分けが良かったら楽なんだけどね」

ふふ、と笑みを溢しながら佐原のお母さんは冷蔵庫からむぎ茶を取り出して用意してくれた。



……佐原が帰ってくる。

おそらく私の隣に座るであろう佐原が、私を見てどう思うのか考えただけで不安になった。



「一足遅かったですね」

三鶴くんが私を気遣うようにぽつりと言う。



佐原のお母さんに、佐原には伝えないでくださいとは言えなくても、私が原因で気まずいことになってるという雰囲気だけでも最初に言っておくべきだったかもしれない。 


ぐつぐつとお鍋が沸騰しはじめて、昆布だしのいい香りがリビングに漂いはじめる。

小鉢におろしポン酢を入れて、お肉と野菜を少しずつお鍋に入れはじめたところで、ガチャッと勢いよくリビングの扉が開いた。




「はあ……はあ……っ」


佐原は息を切らせて帰ってきた。外は寒いというのに、額にほんのりと汗が滲んでいて、きっと慌てて走ってきたのだろう。


数秒ほど瞳が重なったけれど、私は佐原の反応が怖くて目を逸らしてしまった。