外の気温は私が学校から帰ってきた時よりもひんやりとしていた。クローゼットから引っ張り出してきたカビくさいマフラーを私は首元まであげる。


「うわ、あの人色白い!」

「ってか細っ!いいなあ。羨ましい」

すれ違った他校の学生が私を見て振り返っていた。


そうやって私を視界の中に捕らえても、前を向けばすぐに違う話題になる。学校の人たちだってそう。

ひとりでいる私を腫れ物みたいに扱って噂しても、授業をサボったり早退したところで心配したりはしない。

だから、私が突然パッといなくなっても誰も困らないし、忠彦さんや晴江さんや美波は厄介者がいなくなったと清々するかもしれない。


寂しくはない。

ただ、なんで私は生まれてきたんだろうって、ちょっとやっぱり神様を恨みたくなるだけ。



バイト先は駅からも住宅街からも離れた静かな西通りにあるお蕎麦屋さん。

老夫婦が営んでいるお店で、訪れる人はほとんど常連客か近所に住んでいる人たちだけ。

裏から入るドアなどはないので、私はお客と同じように暖簾(のれん)をくぐって引き戸を開けた。



「いらっしゃいませ」
 

テーブルの上を後片付けしていた清子(せいこ)さんと目が合い、私は「おはようございます」と挨拶をした。



「あら、海月ちゃん。今日もよろしくね」

60代半ばの清子さんはとても元気で笑顔が可愛い人。


「海月ちゃん、洗い物溜まってるからよろしく」と、厨房から顔を出したのはここの亭主であり、お店の蕎麦をすべて作っている将之(まさゆき)さん。年齢は清子さんと同じくらいで、頑固者だけど優しい人。


私は店の奥にあるロッカーへと向かい、カバンとマフラーと上着を入れたあと、紺色のエプロンを素早く付けた。