「兄ちゃんは悪意があって俺が弟だってことを黙ってたわけじゃないですよ。たぶん、混乱させたくなかったんだと思います」

「……うん、分かってる」


私はマイナスなほうに勘繰る癖があるから、もし早くにふたりの関係を知っていたら少なからず世間の狭さに恐怖を感じていただろうし、もしかしたらわざと三鶴くんを同じバイト先に送り込んだんじゃないかって、佐原を責めるような考えも生まれてしまっていたかもしれない。


でも今は大丈夫。

佐原はまっすぐだから、そんな根回しをする人じゃないということぐらい、ちゃんと分かってるから。


「この時間に帰ってきてないなら、多分兄ちゃん遊んでると思うんですけど、連絡しますか?」

「い、いい。しなくて大丈夫」


私は三鶴くんの言葉に食いぎみで答えた。

佐原がいない間にお邪魔してるのも悪いと思うけど、やっぱり私はどんな顔して佐原に会えばいいか分からない。


そんな会話をしてる内に晩ごはんが出来上がり、出汁の入った鍋と一口サイズに切られた野菜とお肉がテーブルに並んだ。


「ふたりとも座って」と、佐原のお母さんに言われて、私と三鶴くんはソファーからダイニングテーブルへと移動する。

四人掛けのテーブルで私は右側に座り、三鶴くんは私の斜め前。佐原のお母さんは私の正面で、隣は空席のまま。