なんて答えたらいいのか分からなくて口ごもる私を見て、佐原のお母さんはなにかを思い付いたみたいに両手を叩いた。
「そうだ。今日もまたうちでご飯食べていかない?今日はしゃぶしゃぶなのよ。ほら、お肉も野菜もこんなに」
そう言って袋の中身を見せてくれた。
「……えっと」
どうしよう。
このあとは家に帰るだけだし、バイトを休んだから晩ごはんは苦手なあのダイニングテーブルで食べることになる。
だったらいっそのことバイトに行ったふりをして外にいよう、なんて考えていたけれど、佐原の家になんて行けるわけない。だって私は……。
「それとも海月ちゃんのお母さんはもうご飯の用意をしてるかしら?」
お母さんという単語に、私はピクリと反応した。
「……いえ」
やっぱりそう言われると晴江さんではなく、母のことが頭に浮かぶ。と言っても、学校から帰ってきてご飯なんて用意してあったことはなかったけど。
「だったら、来て。しゃぶしゃぶはみんなで食べたほうが美味しいから」
「いや、でも……」
「あら、手が冷たいじゃない。おばさんが暖めてあげるから早く家に行きましょう!」
佐原のお母さんは私の手を引いて、歩きはじめた。
断るタイミングを探しながらも、佐原のお母さんの話は止まらなくて。結局、私は佐原の家まで来てしまった。