手の震えが止まらない。今だけは治まってって必死に心で繰り返しても、足にまで力が入らなくなってくる。


ダメ。来ないで。来たらバレる。

おかしいって、気づかれる。だからダメ。



「……海月?」


佐原の足音がゆっくりと近づいてくる。ドクンドクンと速い鼓動も、外に漏れてるんじゃないかってぐらいうるさい。



「おい、海月。大丈夫か?」


「……来ないでっ!!」


校舎に反響するほどの大きな声が響き渡る。



「今はあっちに行って」


私は背中越しで佐原を突き放した。すると、足音がピタリと止まった。

なのに小刻みに震える手は止まらなくて、顔さえも振り向くことはできない。



「……具合悪いんじゃねーの?」


佐原の声は明らかに心配していた。



「あんたには関係ないから」


隙を見せたら寄ってくると思った。こんな余裕がない顔は見られたくない。



「……なんでそうやって言うんだよ」

「………」


「一緒に水族館行って、海月も楽しんでくれたら嬉しいなって思って。少しは距離が縮まった気がしてたのは俺だけ?」


佐原は怒ってるんじゃなくて、悲しんでるって分かった。