「なんか痛い。チクチクする」
どうやらこの魚は古い角質を食べてくれるらしい。でも上から見るとなんとも異様な光景で、俺は足をジタバタとさせていた。
「いいな。私、全然こない」
海月も同様に手を入れているけど、周りには一匹の魚がうろちょろしてるだけ。むしろ水槽内にいるドクターフィッシュはすべて俺のところにいる。
「……佐原って、角質いっぱいあるんだね」
「人を汚いみたいに言うな」
水槽から手を抜いたあと、たしかに手はすべすべになったけど、俺は同時になにかを失った気もする。
だって、俺の計画ではアザラシのエサやりを見て、そのあと熱帯魚コーナーでカラフルな魚を見て海月の心を掴み、サメの水槽の前で頭に叩き込んできた豆知識を披露する予定だった。
……なのに俺はカッコ悪い姿しか見せてない。
「苦手なものばっかりだった?」
園内にあるカフェに移動した俺たちは二人がけのテーブルで向かい合わせに座っていた。
「ちょっと疲れた顔してる」
そう言ってカフェラテを飲みながらじっと見つめてくる海月に、俺は水槽にいる魚よりも目が泳いでしまった。