電車の中には空席があり、俺たちは出入口に近いところに座ることができた。水族館まではここから20分ほどで、距離も三駅程度。
沢木たちと電車に乗る時は下らない話をしながら気持ちも緩んでいるのに、海月が隣にいるとやっぱり緊張してしまう。
俺は揺れているつり革を無意味に見つめて、海月は通りすぎていく窓外の景色に目を向けていた。
「……あ、あのさ」
なにか話さないとと、俺は声を出す。
「なに?」
「えっと、なんで俺と水族館に行くことオッケーしてくれたの?」
本当は待ち合わせ場所などのやり取りをしてる時に聞こうと思ったけど、追及しすぎて『じゃ、やっぱり行かない』と言われるのが怖かったから。
「……クラゲ」
「え?」
「クラゲが見たいから」
海月は繰り返すように言った。色々な予想はしていたけど、まさか海月が来てくれた理由がクラゲだとは考えもしてなかった。
「いるかな」
珍しく話を続けてきた海月に「いるよ。ホームページに載ってた」と答えると「ならよかった」と、再び彼女は景色のほうに顔を向けた。