佐原は「そっか」と追及することはせずに、ひんやりとしてる空に向かって、淡い煙のような息をはいた。
「もう息が白くなってきた。明日から11月だもんな」
本格的な冬がくる。私が過ごす最後の季節。
「……マフラー、黒にしたんだ」
佐原の首元に巻かれたそれはとても暖かそうで、とてもよく似合っている。
「うん。なんか海月なら黒って言いそうな気がしたんだけど、違う?」
メッセージの返事をしなかったことを咎めもしないで、自分の好きな色ではなく、私が言いそうな色を選んでくる佐原は優しいというより、可愛い。
「違わない」
そう答えると、きみは嬉しそうに笑う。
ごめん、佐原。
きみの存在は自分が思うよりずっと大きくなってる。それは認める。嘘はつかない。
けれど、私は病気のことだけは言えない。
佐原に重たい現実を見せたくないということもそうだけど、きみは私に対してまっすぐだから、きっと心を痛めてしまうでしょ?
悲しい顔をさせたくない。
その笑顔を奪いたくない。
こんな気持ちが芽生える前に、もっと強く突き放せばよかった。
ごめん、佐原。ごめん――。