フラフラと雨の中をさ迷ってる時も、佐原を強引に誘った時も、甘ったるい匂いに溺れそうになった時も、涙なんてこれっぽっちも出なかったのに。
すべてが終わって、ベッドに仰向けになって、ぼんやりと知らない天井を見つめていたら、自然に涙が頬を伝っていた。
すぐに拭いたはずなのに、そんなところまでしっかり見ていたなんて、やっぱり佐原を誘ったのは失敗だった。
「さあ、なんでかな」
未練、執念、疑念。そんなものがたくさん入り交じって自分でも説明できない感情ぐらいある。
「じゃあ、なんも答えなくていいから、俺これからもお前のこと海月って呼ぶから」
その真剣な眼差しを横目で確認しながら、私はそっぽを向く。
「勝手に呼べば」
呼び方なんてどうでもいい。すぐになにかしらのリアクションがあると思ったのに佐原が妙に静かになったから、心配になって隣を見た。
佐原はうなだれるように手すりに寄りかかりながら、嬉しそうに口元を覆っていた。
見なきゃ、よかった。
そんな顔しないでよ。こんなのはただの気まぐれで。
懐かれたら迷惑だなって考えてる私のことなんて、やっぱりすぐに忘れてほしい。