「美波とはいとこなの。でもただのいとこじゃない。私は今美波の家で暮らしてる。……六年前に母親が蒸発して、そのまま私は美波の家に預けられたんだ」


声が震えたのは最初だけ。あとは不思議なぐらい淡々と話すことができて、佐原は黙って聞いていた。



「母親は未婚で私を産んで、きっと最初は決意も理想もあったんだろうけど、きっと私を育ててみて違ったんだろうね。私は母親の笑った顔も見たことがないし、覚えているのはいつもしかめっ面で頭を抱えていた姿だけ」


金銭的にも肉体的にも精神的にも、母は子育てに向いてる人じゃなかった。


そうやって娘である私が分析してしまうほど、距離感は他人に近かったと思う。



「だから私はなにかが欠けてる。全部母のせいってわけじゃない。でも私は美波の家族と上手くいかなくて、私の保護者になってくれている美波のお母さんにもいまだによそよそしい」


「……このこと他に知ってるやつは?」


「学校では同じ家に住んでるいとこ同士ってことは秘密にしてる。知ってるのは担任を含めた一部の先生だけ」



いずれバレてしまう時が来るかもしれない。でもそのいずれが来ないように美波は用意周到に根回ししてる。


だから正直、驚いた。美波が佐原になら言ってもいいと言ってくれたこと。



もう誤魔化せる雰囲気ではなかったとはいえ、美波が許可してくれなかったら私はまた口を噤(つぐ)んでしまっていたかもしれない。