私たちは公園へと移動した。夕方の時間ということで、この前とは違い人の姿がちらほらあったけどベンチは空いていた。


佐原と肩を並べるようにして座ると、鼻をかすめるのはあの日と同じ甘い香り。


佐原が甘いもの好きだからなのか、それともこれが佐原そのものの匂いなのかは分からない。


でも、自然と引き寄せられてしまう香りに、こんな時でさえ胸がぎゅっとなる。



「手、痛かっただろ」 


最初に口を開いたのは佐原だった。非常階段で強く掴まれた手首には、まだほんのりと赤さが残っている。



「悪い、加減忘れた」


きっとそのことも含めて、佐原は私のことを待っていてくれたんだと思う。



「ううん、平気」 


掴まれた時は痛かったけど、それだけ佐原が必死になってくれた証拠だから。



佐原は優しい、誰よりも。
 

理不尽に責めないでと言った私を責めることはなく、今だって私の口から聞きたいことがたくさんあるはずなのに手首を気にしてくれた。




「驚くと思うよ。私のことを知ったら」
 

本当はまだ心に迷いはあるけれど、話してもいいんじゃないかと思った気持ちを無視してしまったら、私は永遠に自分の過去を打ち明けることなんてできないと思う。



佐原だから、芽生えたこと。

佐原だから、聞いてほしいことがある。



「大丈夫。話して」


佐原の包み込むような眼差しに、私はゆっくりと唇を動かした。