それから私は放課後まで保健室で過ごした。
ベッドで休むのは二時間までと決まっているけれど、私の顔色の悪さに養護教諭の先生はなにも言わずに許してくれた。
「ねえ」
校舎を出て家へと向かう帰り道。
いつもなら絶対に素通りか、もしくは一定の距離を保ったまま絶対に近づいてこない美波が珍しく外で話しかけてきた。
「……な、なに?」
この方角に同じ学校の生徒はいないので、安全地帯だとはいえ私のほうが人目を気にしてしまう。
「あんた今日どうしたわけ?」
きっと美波は私が数学の先生に反抗的な態度をして、一度も教室に戻らなかったことを聞いているんだろう。
あの時、クラスメイトの中で一際驚いた表情をしていたのが美波だった。
「……ちょっと嫌なことがあっただけ」
「ふーん」
思えば私は美波の前で感情的になったことはない。家の中では尚更に静かに過ごすことだけを心掛けてきたから。
「ああいう顔ができるならレストランでお母さんや私にきつく言われた時も表情に出せばよかったのに。なにを言っても涼しくしてるから平気だと思われるのよ」
「………」
「またそうやって黙るんだ」
美波はどっちの味方をしてるんだろう。言い返したところで、さらに言い負かしてくるくせに。
……と、その時。美波の視線が私から逸れて、固まったように顔を強張らせる。
どうしたんだろうと、私も前方を確認すると、そこには佐原が立っていた。