きっと佐原は私の異変に気づいていた。それでもただの風邪なんじゃないかと、ただ体調を崩しやすいだけなんじゃないかと、私が誤魔化すたびに信じてくれていた。
でも、目の前でたくさんの薬を見て、飲んでるところも見て、ああ、やっぱりって佐原が疑いを確信へと変えようとしている。
〝あなたの病名は脳腫瘍です〟
宣告されたことが頭に浮かぶ。
動揺も恐怖もなく、私の人生は私を苦しめる出来事ばかりだと諦めた。
〝でも最後にはどうせ自分ひとりじゃどうにもならなくなって図々しく頼るのよ〟
大丈夫。誰にも言わない。
例え、眠れないほどの頭痛が朝まで続いても、次の日にはなんにもなかったかのような顔をして家を出る。
自分の身体のことは自分が一番よく分かるから、限界がきたら、私は迷惑をかけずにあの家から出ていく。
〝私たちの態度が冷たく感じるかもしれないけど、あんたにも原因があるってこと、それだけは覚えておいて〟
そんなの、言われなくても分かってる。
私は家族というものを知らずに育って、なのに家族という形が出来上がってるところに置いてけぼりにされて。
10歳の私になにができたっていうの?
そこにいるだけで精いっぱい、環境に慣れるだけで必死で。
じゃあ、16歳になった今は『もう六年経ったので私は家族の一員ですよね』って、愛想を振り撒いたらよかったの?
正解なんてどこにもない。
正解なんて、誰も教えてくれない。
「なあ、海月、答えてくれ。この薬は――」
「……そんなに責めないで!!」
非常階段に私の声が響き渡った。