母だと思った女性を追いかけた時よりも激しい動揺。
おそらく佐原は裏庭へと続く外階段にいた。錆び付いたドアを開閉すればキィィと鈍い音がするはずだし、気配もなにもなかったということは、私よりも先にこの場所にいたのだろう。
……全然、気づかなかった。
気づかずに私は、薬を飲んでしまった。
どうしよう。どうやって言い訳をするべき?
ポーチから出た薬は全て拾ったけれど、佐原は私から目を逸らすことはなく、言い逃れできない雰囲気だ。
「その中に入ってたの薬だったんだ」
拾ってくれた時には見られずに済んだのに、今は飲んでるところも落としたところもばっちりと見られてしまった。
「なんの薬?」
佐原は私がいる踊り場まで上がってきて、目の前で足を止めた。
「……サ、サプリメント」
私は嘘をついた。いや、本当のことなんて初めから言うつもりはない。
なんとしても隠し通さなくちゃ、と私は強く手すりを握る。
「いや、どう見てもサプリじゃねーじゃん。数多すぎだし」
「今はカプセル型とかサプリでも色々種類があるの」
「嘘つくな」
「嘘じゃない」
そんな押し問答が何回か続いたあと、佐原は怖い顔をして私の手首を掴んだ。まるで、自分の中に芽生えた不安をぶつけるかのように。
「お前の体調不良と関係あるんだろ?」