自分じゃ制御できないくらい心が荒ぶってる。 

誰のせいでもないのに、自分がした行動に苦しんでるだけなのに、周りに当たるなんて子どもみたい。


家に帰ろうと勢いのまま昇降口に向かっていたけれど、考えてみれば家には晴江さんがいるし、早退はできない。

方向転換するように目的地を変えて、私は非常階段へと歩き進めた。



錆びたドアを開けて階段の踊り場へと出ると、北風が頬を通りすぎていく。


……寒い。ロッカーにマフラーを押し込んだまま来てしまった。



そういえば、佐原に返事をしてないや。結局、黒と茶色どっちにしたんだろう。

そんなことをぼんやりと考えながら、私はカバンからポーチを取り出す。



隣町の大学病院には定期検診も含めて二週間に一度は薬をもらいに行っている。


この前の検診の時、腫瘍の大きさは変わってないと言われた。変化がないということは大きいままだということで治療のしようがないので、また気休めの薬だけを貰って帰った。


ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ。

形や効能が違う薬を私はラムネのように手のひらに乗せて、それらを水で流し込む。



……昔は小さな一粒でさえむせて飲めなかったのに、ずいぶんと薬の飲み方が上手くなってしまった。




「なにそれ?」


気配もなく聞こえてきた声に私はドキッとして、思わず抱えていたポーチを落とした。


チャックが開いたままだったので、小分けにしてある薬が全て外に出てしまい、私は慌ててかき集める。



「ねえ、なにそれ」


佐原が同じ言葉を繰り返した。