「……私、誰と関わっても悲観的で、心なんてこれっぽっちも動くことはなかったの。でもあいつには簡単に動かされる」
せっかくの外食を台無しにしてしまい、美波にも怒られて、おまけに母の顔がさっきから頭にちらついてる。
不安定で、頭がグラグラしていて、こんな時もいつだって私はひとりで耐えてきた。なのに、暗闇の中で光を探すように佐原の顔を思い出す。
流したはずだった。
でも私が思う以上に、あいつの存在は頑固で厄介だ。
「隠し事、その人には言えませんか?」
三鶴くんのその言葉に、私は即答だった。
「言えない」
むしろ、世界中の人にバレても、佐原にだけは知られたくない。
私の生い立ちや家族関係のこともそうだけど、病気のことはとくに。
「やっぱり半分食べます?身体が、少しは暖まりますよ」
私を励ますように、三鶴くんが蕎麦を差し出した。まだ湯気が立っている蕎麦を受け取り、一口だけ食べた。
「……美味しい」
そう言うと、三鶴くんは嬉しそうに微笑む。
やっぱりその優しいが、彼に似てる気がした。