「いやいや、岸さん裏にいるから知らないですけど、器も小鉢もコップもいつもピカピカで嬉しいってお客さん言ってますよ。美味しい蕎麦がもっと美味しく感じるって」

「………」

「真面目でいい子で、年内に辞めちゃうなんて寂しいって、清子さんや将之さんが言ってました。必要とされてますね」


三鶴くんの言葉に、私はさらにブランコを握る手を強くした。




「……必要とされてなんかないよ」


それを、ついさっき痛感したばかり。



か細く言った声が、三鶴くんに届いていたかは分からない。でも残念ながら辺りは静かだし、音を出してるのはお化け電球に群がる羽虫ぐらいだから、きっと聞こえていたと思う。




「岸さんって、隠し事ありますよね?」


私のことをじっと見つめながら三鶴くんは落ち着いた声で言った。どう答えたらいいか分からなくて口を濁らせていると、「分かります。俺も隠し事は多いほうなんで」と付け加えた。



いつもなら押し黙る質問も、三鶴くんとはバイトでしか会わないし友達でもないし、なにを話しても気まずくはならないと、私は重たい唇をゆっくりと開く。