蕎麦は清子さんが冗談でつけた満月蕎麦だった。本来は生たまごをふたつ落とすのだけれど、容器にフタがしてあったせいか火が通ってしまってる。


「食べます?」

三鶴くんがズズズッと蕎麦を気持ちがいいぐらいすすったところで、蕎麦を私に向けた。



「ううん……」

「そうですか」


再び食べはじめた音を聞きながら、私は星も出ていないのに、無意味に夜空を見上げた。


三鶴くんは年下なのに妙に落ち着いてるし、言うこと大人びている。なのにバイトの理由が欲しいゲームがあるから、なんて掴みどころがない。


でも、なんとなく親近感が湧く。


纏(まと)う空気が、あいつに似てるからだろうか。



「今日バイトで岸さんの話になりましたよ」

「え?」


「実は今日のお客さんから『器の汚れが残ってる』って苦情がきたんですよ。洗ってたのはベテランのバイトの人だったんですけど、ほら、うちの店に食器洗浄機ってないじゃないですか。それで、忙しい時は手が回らないってその人が言い出して、ちょっとトラブルになったんです」


たしかに、最近は食べにくる人が多くなったから、お皿は洗っても洗っても終わらない気持ちは分かる。



「それで、そういえば岸さんがバイトに入ってる時は洗い残しなんて一度もないよねって話になったんですよ」

「……そんなことないよ」


気を付けてはいるけど、どうしても雑になってしまう時もあるし。