帰っていいと言われても、帰る気にはなれなくて。私は店を出てとぼとぼと歩いていた。
行く当てもないし、お財布も持ってきてないので、私は通りかかった公園に入りブランコへと腰かけた。
地面を少しだけ蹴ると、公園にギィィという錆びた鉄の音が響く。
外灯もバチバチとお化け電球になってるし、砂場の上には何故か片方だけの赤い靴が落ちてるし、普通の人なら気味悪がるところなんだろうけど、病気になってよかったと思った自分のほうが怖すぎてなんとも思わない。
――『もしなにかあったら……。寂しいとか苦しいとか具合悪いとか腹減ったとかなんでもいいから、なにかあったらすぐに連絡して!』
いるはずがないのに、佐原の声が聞こえた気がして、私はブランコの鎖をぎゅっとした。
と、その瞬間……。
「岸さん?」
突然、名前を呼ばれてハッと顔を上げると、そこには三鶴くんがいた。
私以上に三鶴くんもビックリしたのだろう。瞳がまん丸になっている。
「なにしてるんですか?こんなところで」
「……み、三鶴くんこそ」
「俺はバイト帰りです。で、晩ごはんにって蕎麦もらったんですけど、親にバイトしてるの内緒なんでここで食べようかなって寄ったところです」
たしかに持ってるビニール袋からは、出汁が効いてる蕎麦のいい香りが漂っていた。
「伸びるの嫌なんで、隣いいですか?」
「え、うん」
三鶴くんはベンチではなく、空いていた隣のブランコに座った。太ももで器用に蕎麦の入った容器を挟みながら割りばしを口で割る。