「あんたが私たちに馴染めないのは分かるし、気まずいのも分かるし、気遣ってるのも分かる。でも、それは私たちも同じ」
美波が語尾を強くした。
「こうして外食に誘ってちょっとぐらいは形作ろうとしたって、あんたはいつもつまんなそうに黙るだけ。私たちの態度が冷たく感じるかもしれないけど、あんたにも原因があるってこと、それだけは覚えておいて」
そう言って美波はトイレのドアノブに手をかける。
「あんたは具合が悪くなって先に帰ったって言っておくから。そのほうがいいでしょ?」
「……うん」
小さく返事をすると、バタンと扉が閉まった。
ひとりきりの空間になって、私はまだムカムカしてるお腹を触る。
美波の言うとおりだ。
言うとおりすぎて、なんにも言葉が出なかった。
私は家に置かせてもらってるという罪悪感を抱えたまま暮らしてる。
私は望まれて生まれてきたわけじゃないから、私が望まれないのは当然で。美波や晴江さんや忠彦さんからも望まれてないという意識だけは10歳の頃から強くあった。
だから、なにを話していいか分からなくて、どういう顔して接したら正解なのかが分からなくて……。
歩み寄ろうとしてくれたいくつかの出来事を、私は素直に受け取ることができなかった。
そういうことが積み重なって、いまだに距離が縮まらないのも、他人行儀な喋り方も、それぞれが不満を持つことも当たり前。
ごめんなさい。素直になれなくて。
私は邪魔ではないですか?
大きな負担になっていませんか?
今からでも、間に合いますか?
伝えなくてはいけないそれらの言葉は、嫌というほど頭でこだましてる。
でも今真っ先に思っていることは……。
病気になってよかった。
だって、私はいなくなる。
いなくなれる。
病気を理由に逃げようとするなんて、最悪だ、私。