「勘違いしないでよね」

私の手を離したと同時に美波の声色がガラリと変わった。


「あんたを助けたわけじゃない。お母さん、ああなると止まらないし、店員もじろじろ見てたし、まだ料理だって半分も食べてないのに帰ってくださいなんて言われたら最悪だから」

美波は壁に背中をつけてため息をはいた。


私はまだ心臓がバクバクしていて治まる気配がない。

家族団らんの空気をぶち壊してしまったこと。晴江さんがあんな風に私に対して不満を持っていたこと。

でも一番は、母の顔が頭に浮かんだから。


せっかく思い出さないようにしてたのに、置き去りにされた寂しさとか、自分はいらない子なんだって幼いながらに感じていた苦しさとか、そういう色んな感情で今はぐちゃぐちゃになってる。



「あんた、私のお母さんのこと苦手でしょ?」

「え……」

「まあ、お母さんに限らずだと思うけど、いい機会だからはっきり言っておく。お母さん、あんたのことで色々と言われてるみたいなの。姉の子供を面倒見て偉いって言う人もいれば、だったらちゃんと引き取ってあげればいいのにって言う人もいる」

「………」

「色んな仮説を立ててああだこうだ詮索して、おまけに本当は姉の子供じゃなくて、不倫した末にできた隠し子だってさ。お父さんなんてゴミ出しにいくたびに『大変ですね』なんて言われるし、私だって『仲良くやってるの?』っていちいち聞かれる」


近所の人たちが私のことを不思議そうに見てることは知っていたけど、まさか隠し子なんてありもしないことを言われていたなんて知らなかった。