「いや、なんか俺と噂されたり立て続けに色んなことがあったら、その、俺と関わるのが嫌になったかなって……」


たぶん俺は海月に気持ちを押し付けている。

カッコ悪いぐらい、情けないくらい、海月のことになると余裕がなくなる。それによって正常な判断がつかない時もある。

そういうことが積み重なって海月の負担になってるんじゃないか。それは結果的にひどいことをしてることと同じなんじゃないかって、海月の態度が冷たくなって気づいた。


「……そうだね。私は佐原のせいで目立つことが増えたし、人目を避けてきたのにじろじろ見られるようになった」

「ごめん」

だからもう関わらないでほしい。そう言われてしまうだろうと思った。



「でもひどいことはされてない。それだけは言っとく」


受け入れてくれたのか、それとも距離を置かれたままなのか、はっきりとした答えではなかったけど、拒絶ではない。

そうポジティブに考えることにした俺は、おもむろに部屋の隅にあるグランドピアノに触れた。


ピアノは放置してると調律が狂うなんて言うけれど、適当に鍵盤を叩くと思ったよりは綺麗な音色が出た。


俺の様子を伺うようにして教壇から離れない海月を横目に、俺は椅子へと座ってピアノの弾く。


最初は弾丸のようなアップテンポから次第に緩やかになっていくメロディ。この題名なんだったっけ?真夜中の……なんちゃらって感じだったけど忘れた。

そして最大の盛り上がりのところで俺は鍵盤を離す。

山場を勿体ぶってるわけじゃない。ただ単純にこの先を知らないだけ。