目が覚めた時には、辺りはすっかり暗くなっていた。
頭をもたげて机の上の時計を確認すると八時を過ぎたところで、扇風機は変わらずプーンと回り続けていた。

リビングからの光が漏れている。
そっと隙間から外を確認すると、お父さんが台所に立って何やら作業をしていた。
週末の夕飯担当はお父さん。
会話がなくても、役割分担を果たすのはお父さんの几帳面な性格と、自由奔放でも家事を一切怠らなかった離婚したお母さんのことが過るからだと思う。

食卓は一緒に囲まないが、何かは作ってくれているようだ。
以前なら「手伝うよ」と声をかけに行くところなのに、不思議と身体が動かない。

出て行って、何かを言われるのが、怖い。
拒絶されるのが、怖い。
もう一度ベッドに顔を伏せる。

なんだか懐かしい夢だった。
そういえば、そんなこともあった。

あの時の私は今よりも数段明るくて、いつも周りには人がいて。
笑いあって、はしゃぎあって、抱えていた傷はそのままでも、毎日がそれなりに楽しくて、青春を謳歌していて。
花壇だって、私の逃げ場所なんかじゃなくって。
……でも、もうそんなキラキラしていた思い出も、全て過去のもので——


微睡んでいたら、また短い間寝てしまった。
次に目が覚めた時はリビングにお父さんの姿はなく、コンロ上の鍋の中にカレーが入っているだけだった。
水切りには1人分のプレートとスプーン。
私も1人っきりで食卓につき、1人っきりで平らげた。
それを食べた後、お腹を休めながら、ソファーにぼーっと座る。
クッションを抱えて今日の出来ごとを思い返し、ふとポシェットの中のハンカチを思い出した。

弘海先輩は返さなくていい、と言っていたが、一応洗濯することにした。
要らなくても、人のものを捨てるのは憚られる。
のろのろと立ち上がり部屋に戻る。

椅子にかけてあったポシェットの中から、まだ少し湿っているチェック柄のハンカチを取り出す。
洗面所に行くとき、お父さんの部屋の前を横切ったが、部屋の電気は点いていないようだった。壁の掛け時計はもう日付を跨いでいた。