ここは縁結びの神様を祀っている。
縁結びは縁結びでも、この神社は男女の中だけではなく、家族だとか、友人だとか、大切な人との縁も末永く続くよう願う、そういう場所だった。

御神籤の代わりに置いてあるのが、笹舟だった。
普通は自分の願いを込めて、手のひらサイズの笹舟を一回につき一人一艘流すのが通例。
それを境内に流れている川の小さな滝の上流から流す。ぐるりと半周、拝殿を囲うように流れる瀧川を、その笹舟が止まったり、転覆することなく、境外へ続いている下流に流れていけば、願いは聞き入れられる。

でもそれを、縁を大事にしたい人と一緒に、願いを込めて流し、同じように何事もなく境外へ流れ出ていけば、願った者同士は、どんな分かれ道があってもまた出会うことができる。そんなジンクスもあった。

小さな滝の勢いは強く、瀧川の流れも早い上に、途中妨げるように小岩が迫り出したりしているので、笹舟は岩に道を阻まれて止まってしまったり、水が入って転覆してしまったりするものも少なくない。
今見渡す限りでも、ひっくり返って岩に引っかかっているのが一艘見える。
そういうものは、後できちんと集められて、拝殿に奉納されるそうだ。
大凶を引いた時に、おみくじをくくりつけるのと同じ要領。


それで、弘海先輩が笹舟の存在と、もうひとつの使い方知って、面白そうだからやってみようと言うので、私たちも一緒に笹舟を流して見ることにした。これといって願いがあるわけでもなかったので、遊び心半分で私はその提案に乗っかった。


「その時僕が『離れても、きっとまた会えるね』って言ったら、杏那は『そんなこと絶対ないですよ』って笑ったんだ」


流れが速いにもかかわらず、笹舟は座礁することも、転覆することもなく、器用に境内を流れて、下流に消えて行った。
あまりに嬉しくて、二人ではしゃいでハイタッチまでしたっけ。

でもその弘海先輩の言葉に、すっかり気が緩んでいた私は思わずそう答えてしまっていた。
思い出されて、バツが悪くなる。