言葉を失ってしまった私に、浅木先生は三年前に起こった出来事を話してくれた。

「三年前、菓子ちゃんが中学三年のちょうど今くらいの時期、菓子ちゃんのお母さんが倒れたんだ。くも膜下出血で、突然のことだったらしい。菓子ちゃんと一緒に夕飯の支度をしているときに急に倒れたと聞いた。すぐに救急車で運ばれたけれど、間に合わなかった」

 お母さんが亡くなっていたことも、私は知らなかった。いつも作った料理を持ち帰っていたのは、お父さんに食べさせるためだったのか。

 一緒に夕飯を作る菓子先輩とお母さんの姿が目に浮かぶ。きっと仲の良い母娘だったのだろう。自分の目の前で大好きなお母さんが倒れたとき、菓子先輩はどんな気持ちで――。

 だめだ。自分に置き換えて想像したけれど、お母さんがいなくなるなんて考えただけでつらい。

「受験の時期でつらかっただろうけれど、菓子ちゃんは無事合格して桃園高校に入学した。入学式で菓子ちゃんを見たとき、壊れてしまいそうな子だなと思ったよ。何か心に秘めたものがあるのだと思ったけれど、そのときはまだ、それが何なのかまでは分からなかった」

 今のほんわかした菓子先輩からは想像できない。けれど、ガラス細工みたいな繊細な心を、やわらかいマシュマロで隠しているようなところが菓子先輩にはあった。

「菓子ちゃんは僕が顧問をしている料理部に入部してきた。入学式の日に感じた危うさはなくなっていて、ふつうの明るい女の子に思えたよ。ただ少し――食べる量が少ないのが気になっていた。もともと痩せていたから、まわりは小食という説明で納得していたけどね」

 それはそうだ。何を食べても味がしなかったら、噛んで飲みこむのだって大変だろう。