夜道なんだからもっと広くて明るいところを通ればよかったのに、と今更ながらいらぬ世話を焼いてしまう。ともすれば、美由紀本人が一番後悔しているかもしれない。まさか殺されるなどとは夢にも思っていなかったのだろうな、と少しだけ同情の念が湧いた。

「犯人は先輩がいつもその道を通ることを知っていて、犯行に及んだのかな……?」

「その可能性ももちろん考え得るし、通り魔の犯行の線も完全には捨てきれないのが現状だ。ただし、通り魔による行きずりの犯行だとすると、わざわざ百メートルも離れた階段まで遺体を運んで事故に見せかけようとした理由が説明できない。普通ならその場に放置して現場を離れるだろうからな。となると、犯人は最初から被害者・羽場美由紀を殺すつもりで待ち伏せしていたと考えるほうが自然だろう」

「でも、仮に初めから先輩を事故に見せかけて殺すつもりだったんなら、階段のすぐそばで殴ってそのまま突き落とせば話は早かったんじゃ……?」

「そう、その点も不可解だな。しいて理由を上げるとすれば、例の階段は高層マンションと公園に挟まれていて、路地よりも明るくひらけている場所に設けられていた。殴打する瞬間を目撃される可能性はぐんと上がる」

「でもそれって、先輩を運ぶ瞬間だって見られたら困るわけだから結局は同じことだろ?」