「先輩、松村さん以外に誰かともめたりとか、何かトラブルを抱えていたとか、そういったことってなかったんですか?」

『そうですねぇ……どちらかというと日々穏やかに過ごせるように動いてきたつもりなのですけれど、実際こうして殺されてしまったわけですし、何か誰かの気に障るようなことをしてしまっていたのなら、申し訳ないとしか言えませんね』

 殺された割にあっけらかんとしすぎな点は一旦棚上げして、変なところで気が合うな、と詠斗はつい思ってしまった。

 どちらかと言わず、詠斗は日々穏やかに過ごすことだけを目標に生きている。今がその穏やかな日々からうんと外れているのは一体誰のせいなのか、それは言わないでおくけれど。

「わかりました。また何か思い出したり、気がついたことがあったら教えてください。周辺事情とのすり合わせは紗友と巧の聞き込み結果を待ってからにします」

 そう言って、詠斗は駅方面に向かって歩き出した。いつまでもここにいたところで、警察が見落とすような大きな手がかりは得られそうにない。