その日、朝陽は偶然にも東雲家にボールを投げ入れてしまった。
 正直なところ逃げ出してしまいたかったが、逃げてしまえばもっとややこしいことになるかもしれないと思い、勇気を振り絞って東雲家のインターホンを鳴らす。

 玄関から出てきたのは、自分の母親より少し若いぐらいの女性。最初、彼女が泣いているのかと思ったが、それは違うということにすぐ気付く。よく見ると右目の下には泣きぼくろがあり、それが涙に見えただけだった。

 朝陽は声が震えながらも事情を説明すると、庭へ行きボールを探しに行ってくれた。戻ってきたときにはその手に一つのボールが握られていて、朝陽はホッと安堵する。

 そして不意に、一粒の涙が頬を伝った。怒られるかもしれないと身構えていたが、その女性は優しい表情のまま朝陽の頭を撫でてくれたのだ。

 一向に泣き止まないその姿を見て、女性は家の中へと入れてくれた。美味しいケーキを振舞われ、朝陽の表情に笑顔が戻る。

 そんなときに、一つの写真が目に入った。

 そこには、目の前の彼女そっくりな少女が映っている。彼女はカメラ目線でピースをしているが、隣にいる少女は恥ずかしがっているのか、目線をやや外していた。

 その写真を見ていると、彼女はとても嬉しそうな笑みを浮かべる。

「可愛いでしょ。私によく似た、自慢の娘なの」

 確かに、写真に映っている娘は、目の前の彼女とよく似ているなと朝陽は思った。

 朝陽はその少女に純粋な興味を示した。会って一度話をしてみたい。ベッドの上の少女が、とても孤独そうに見えたから。

 すぐに少女の母へお願いをした。母は一瞬戸惑った表情を浮かべたが、最後には嬉しそうな笑みを浮かべて朝陽の言葉を了承する。その瞳には、綺麗な涙がたまっていた。

 そして朝陽はベッドの上の少女、東雲紫乃と出会った。