「はい!」
女将さんかなと半ば予想し扉を開けると、廊下に立っていたのは静かな水底のような深い青色セーターを着た八雲君で。
「八雲君」
「一緒に考えたらいいかなって思ったから」
だから来たのだと、彼は私を見上げて小脇に抱えた自由帳と筆箱を手に持ち直すと「いい?」と聞いてくる。
昨日のことで少しでも打ち解けてくれたのが嬉しくて、私はもちろんと頷き、八雲君を部屋の中へ招き入れた。
「実は、私も悩んでたところなの」
座卓を挟んで向かい合うように座る私たち。
八雲君は自由帳を開くと、まだ使ってない真っ白なページに鉛筆を走らせる。
タイトルなのだろう。
【自由けんきゅうのアイデア】と書いて、私を見た。
「とりあえずオレが昨日母ちゃんと考えたアイデアは、島で獲れる魚の紹介」
「なるほど。でも、何で魚なの?」
他にも島に育つ植物とか、生息している鳥とか、考えればあるのに魚なのはなぜかと問いかければ、八雲君は「父ちゃんが漁師だから」と教えてくれて納得する。
確かにそれなら詳しいだろうし、お父さんからもいいアドバイスが得られるはずだ。
八雲君が自由帳に【よみの島でとれる魚】と書く。
そして、その横に魚の絵を描いているんだけど……。
「わっ、凄く上手だね」
小学校低学年の描いた絵とは思えないほどの出来に驚いた。