子猫は私たちの様子を伺いながらも、八雲君の差し出すソーセージの匂い嗅いで小さな鼻をヒクヒクと動かしている。

続けてパクリと噛み付いたところで、八雲君は再び口を開いた。


「餌あげてるの、母ちゃんには言わないで」


しゃがみこんだまま子猫を見つめてそう頼んだ彼。

私はそっと八雲君の隣にしゃがみこむと、「わかった。約束するね」と頷いた。

安堵したんだろう。

彼の肩から力が抜けるのがわかって、私も自然と強張って握っていた手を緩める。

自分よりも幼い相手だとわかっていても、人見知りされると、同じく人見知りする私としてはどうやって距離を縮めればいいのかわからないのだ。

でも、とりあえず今は警戒を解いてくれたようでホッと胸を撫で下ろす。

美味しそうにソーセージを食べる子猫の存在も、私の緊張を解してくれてありがたい。


「かわいいね。この子のお名前は?」


お食事中の子猫を驚かさないように、静かな声で尋ねると、八雲君は小さく頭を振る。


「まだ、つけてない。それに、つけてもうちは飼えないし」

「ダメなの?」

「母ちゃん、猫アレルギーだから」

「そうなんだ……」


それだと、飼いたくても確かに厳しい。

でも、八雲君は諦めきれなくて、こうして隠れて餌をあげているのだ。

その気持ちは、私にも経験があるからわかる。