「いいのいいの。可愛らしかったよ」
女将さんはハンガーに洗濯物をひっかけると、八雲君に「あんたもいいよね?」と確認する。
八雲君は否定も肯定もせず、視線を膝に落としたままだ。
彼の気持ちは良くわかる。
知らない人と何かをするなんて、緊張するし不安ばかりが胸を占めてるはずだ。
なんて答えるべきかわからず黙ってしまう。
でも、そんな時、私はいつも思っていた。
嫌なわけじゃないんだと。
だから、私の緊張や不安なんてお構いなしに、笑顔を向けて手を引いてくれるナギの存在は大きくて。
私は、そんなナギのことを思い出しながら、シーツを物干し竿にかけて。
なるべく笑みを浮かべるように意識して、八雲君の前にしゃがんだ。
「えっと……八雲君、私は花岡 凛といいます。もし嫌じゃなければ、自由研究のお手伝いさせてくれる?」
頷いてくれたらいいなと願いつつ、声をかけてみる。
けれど。
「……オレ、行くとこあるから」
「えっ……」
彼の緊張をほぐすことができなかったようで、八雲君は家の中に逃げてしまった。