「たんとお食べ!」


女将さんが笑顔と共に部屋に運んできてくれた夕食は、新鮮なお刺身に焼きアワビと、旬のお野菜を使った天ぷら。
さらには牛肉のしゃぶしゃぶも出てきて、その豪華さに驚いた。

益子焼きと呼ばれる器に盛り付けられたそれらは、見た目も味も良く、大満足だったけど、さすがに良くしてもらい過ぎな気がして恐縮してしまって。

だけど女将さんは『これくらいはさせて』と、たつ君のお礼をしてくれたのだ。

みなか屋に戻ってから聞いたのだけど、どうやらたつ君は五つ年上のお兄ちゃんと遊んでいてうっかりはぐれたらしい。

少し探したけど弟が見つからず、焦ったお兄ちゃんが青い顔して帰ってきて、女将さんに事情を説明したそうだ。

ちなみに、たつ君は龍彦(たつひこ)君、お兄ちゃんは八雲(やくも)君という名前だと女将さんが教えてくれた。

宿内で会うこともあるだろうから、もし良かったらかまってやってね、と。

私は人見知りだけど、小さい子が相手なら割と大丈夫なので、私で良ければと答えた。