「ナギ」

「ん?」


彼は歩きながらこちらを振り返ると、形のいい眉を上げて「なに?」と続きを促す。


「そのマフラー、どこにあったの?」

「どこにって?」

「私、借りたのに落としてしまったみたいで」


申し訳ない気持ちで伝えると、ナギは忘れていたのか「ああ、そういえば貸してたっけか」なんて飄々としながら口にした。

そして、深い深い赤色のマフラーに触れて、思い出せないのか眉を寄せる。


「どこで……どこでだ?」

「覚えてないの?」

「凛が帰ったあと、急に眠くなったんだ。それから、あんまり記憶にない」


眠くてぼんやりしながらマフラーを見つけた、ということなのだろうか。

私も一緒になって首を傾げてしまうけど、とりあえず失くしたままにならなくて良かったと安堵の息をつく。


「汚れたりしてない?」

「全然。まあ、万が一失くしても気にするなよ。宝物ってわけでもないしな」

「良かった……。失くしてしまっていたら、お詫びに買ってプレゼントしようと思ってたの」


そう告げると、ナギは表情を明るくして微笑んだ。


「そんなことしなくてもいいよ。凛を困らせる為に貸したんじゃないんだし」


優しい言葉を紡がれて、どこか甘やかな雰囲気を持った笑みを浮かべられて。

トクトクと、鼓動を速まるのを感じ、落ち着こうと呼吸を整える。