「ごめんね。お巡りさんのところに連れて行ってあげるから、少しだけ待っててね」


男の子は小さく頷くと、手の甲で瞼をこすって涙を拭いた。

私はカバンから自分のハンカチを取り出すと、男の子に「どうぞ」と手渡してあげる。

その様子を見守っていたナギが僅かに首を傾けた。


「交番探してるのか?」

「そうなの。ナギ、わかる?」

「わかるよ。俺で良ければ案内しようか」

「ありがとう!」


ナギにお礼を告げると、私は男の子に手を伸ばす。


「行こう。歩ける?」

「うん……」


まだ涙は止まらない様子だけど、男の子は私の手に小さくて温かい手を重ねて立ち上がってくれた。

ナギがこっちだと先導してくれて、私たちは男の子に合わせてゆっくりと住宅街を歩いていく。

この辺りは島の中心地とは違い、入り組んだ作りにはなっていない。

でも、この子は遊んでいるうちにいつもと違う道に入ってしまい、方向がわからなくなったのだろう。

不安げな瞳は、お母さんを探しているのか、見知った風景を探しているのか。

男の子は私のハンカチで涙を拭きながら、周りの様子を見ている。

私は男の子を励ますように小さな手をキュッと握りしめ、少し前を歩くナギに話しかけようとして。


「……あれ?」


それに、気づいた。

ナギの首元に、今朝失くしたはずのマフラーが巻かれているのだ。