ともかく、この子が迷子なのはわかったけど、どうしたらいいんだろう。

そうだ。

まずはお巡りさん。

交番に連れて行ってあげるべきだ。

この辺りに交番はあるかなと、カバンからスマホを取り出した刹那──。

私の鼻を、あの冬桜の香りがくすぐって。

どこかに咲いているのかと意識した直後。


「りーん、そこで何してるんだー?」


朝、あの夢のような景色の中で再会した人の心地よい声が聞こえて。

私は思わず立ち上がり、振り返った。


「ここだ、ここ」


笑いを含んだ声は、神社の方角から。

鳥居の先にある石の階段の一番上に、ナギが立っていた。

彼は私に「よっ」と片手を上げて挨拶すると、髪をふわふわと揺らし、軽快な足取りで階段を下りてくる。


「ナギ、良かった、会えて」

「ん? 俺に用事?」


茶色い瞳に疑問を浮かべながら、ナギが自分を指差した。


「そうなんだけど……あっ、でも今は迷子のこの子を交番に連れて行ってあげたいの」


未だ肩を跳ねさせて泣いている男の子は、不安そうに私を見ている。