ヒロが椅子にひっかけていたスタジャンのポケットからスマホを取り出す。
「悪い。電話出てくる」
立ち上がりつつ私に伝えると、ヒロは店から出ていった。
私は彼を待ちながら優しい味のお鍋をつつく。
ヒロはほとんど食べ終えた状態で、やっぱり男の子ら食べるのが早いなと変なところを感心していたら、店の引き戸を開けて彼が戻ってきた。
「悪いけど戻る。急ぎの配達が入ったらしい」
「そうなんだ。お仕事頑張ってね」
と、伝えたところで肝心の用事を思い出す。
「あの、ヒロ」
「なんだ」
スタジャンを手にし、お財布をデニムパンツの後ろポケットから出すヒロに、私は聞いた。
「ナギの連絡先を教えてほしくて」
喧嘩をしているのはわかっている。
でも、それは二人の間のことだから問題なく教えてもらえるものだと思っていたのだけど。
ヒロは迷うように瞳を揺らして。
「……今は、繋がらない」
「え?」
「かけても出ない」
連絡先を聞いても無駄になることを伝えた。