「お腹は、大丈夫。ちょっとそこの坂に体力を奪われて……」


説明しながら坂のある方角を指差すと、ヒロは心当たりがあるようで「ああ」と納得してから眉をひそめた。


「みなか屋からならもっと楽なルートがあるだろ」

「その、実は、前に住んでた家の方を見に行ってたんだけど、バス逃しちゃって。歩いた方が早いかなと思ったから地図見ながら進んだら……」

「坂を上るハメになったのか」


苦笑いして頷くと、ヒロは労うように私の頭をポンポンと撫でた。


「お前、原付とかバイクの免許はあるのか?」

「ううん」


首を横に振って答えると、ヒロが「そうか」と声を零す。


「都会は移動手段に困らないから必要ないだろうが、ここじゃ自転車くらいないと不便だ。俺ので良ければ貸すから滞在中使え」

「い、いいよ。ヒロだって使うでしょ?」


確かに不便ではあるけれど、上手くバスの徒歩を駆使すれば移動はできる。

ヒロの厚意は嬉しいけれど、それでヒロが困るのは望まない。

だから思い切り遠慮したのだけど、ヒロは問題ないと口にした。


「俺は高校に入ってからずっとバイクだから自転車はしばらく使ってない。だから気にせず使っていい」


言われて、そういえばと思い出す。

ヒロが昨日、お店のバイクに跨っていたのを。