「着いた……!」


【天神商店街】と書かれた看板を見上げ、私は思わず声を上げる。

実は、タイミング悪くバスに乗りそびれてしまい、次のバスを待つより歩いた方が早そうだったので頑張って歩いたのだけど……。

マップを見ながら最短ルートを辿ってみれば、この通りに出る寸前、心臓破りの坂を登ることになってしまい、その結果。


「の、飲み物……自販機……ベンチ……」


足はクタクタ、喉はカラカラになってしまったのだ。

疲労で重くなった足をどうにか前へと動かして、飲み物と休憩場所を求めて歩いていたら。


「……凛?」


怪訝そうな低い声が聞こえて、俯きかけていた顔を上げる。

視線の先いたのは、これから会いに行こうとしていたヒロだった。

彼は瓶ビールの入ったお酒のケースを足元に下ろすと、「腹でも痛いのか?」と首を傾げる。

よく見れば、ヒロはお店の前掛けをして、彼の背後に設置されている棚にはクリスマスディナーに合いそうなワインやシャンパンといったお酒がズラリと並んでいた。

そして、ヒロの横には【酒】という文字と【あだち】という彼の苗字が書かれたスタンド看板。

どうやらここがヒロのご両親が経営している酒屋さんらしい。

疲れ過ぎて全く気づかなかった。

ヒロが声をかけてくれなければ危うく通り過ぎてしまっていただろう。