「大丈夫か? まさか桜アレルギー?」

「ないと思うけど、やっぱりこの木の花は桜なんだね」

「冬桜だよ。秋から冬に咲く桜で、二回開花するんだ」


だから長い期間咲いているんだと教えてもらい、私は桜にも色々な種類があるのだと感心する。


「アレルギーじゃないなら冷えたのかもな。曇ってきたし、そろそろ帰った方がいいんじゃないか?」


言われて空を見上げると、確かに雲が多くなり、いつのまにか太陽を隠していた。


「ナギは?」


まだ帰らないのかと問いかければ、彼は視線を斜めに下に外して。


「俺は……少し、考えたいことがあるから、まだここにいるよ」

「そう……」


もしかして、ナギは考えごとをする為にひとりになりたくてここにいたのかな。

だとしたら、私はきっと考えごとの邪魔になるだろう。


「あの、それじゃあ──」

「ほら」


別れの言葉を遮り、ナギは自分の首を暖めていた深みのあるワインレッドのマフラーを、私の首元に巻いた。
近くなった距離にドキドキしながら私は頭を振る。


「い、いいよ。ナギが冷えちゃう」

「俺より凛の体の方が大事だろ」


いいから、持って行ってと微笑まれたら断れず。


「ありがとう……」

「どういたしまして」


結局、私はナギのマフラーを借り、危なくない道があるのを教えてもらって桜の木々に囲まれるナギに手を振って別れた。