鏡の向こうで、身につけた勾玉のペンダントが太陽の陽を受けて一瞬光る。
身支度を整えた私は、洗面台から離れると部屋の隅に置いていたショルダーバッグとダッフルコートを手に取り部屋出た。
コートを羽織りつつ階段を下っていると、雑巾を手にした女将さんが私に気づいて「おでかけかい?」と笑みを浮かべる。
「はい。さっき女将さんから聞いた情報を頼りに、散歩に行ってきます」
実は、二時間ほど前、朝食を部屋に運んできてくれた女将さんに尋ねたのだ。
ヒロの実家である酒屋さんの場所を。
どうやら、民宿の目の前にある停留所からバスに乗り、十分ほどのところにある【天神(てんじん)商店街】の中にあるらしい。
「今ならバスはすぐ来るけど、商店街はまだ開店前だよ?」
女将さんは、小さな受付カウンターに雑巾を置いて心配そうに眉を寄せた。
私は慌てて両手のひらを振る。
「あ、えっと、そっちはまだで、先に教えてもらった展望台に行って、それから商店街に行こうかなって」
「なるほどね。気をつけていっておいで」
「はい。いってきます」
笑みと共に送り出されて、私はカバンを肩からかけた。
そうして宿を出るとタイミング良く姿を見せたバスに乗り込む。