『待て凛。雪も降ってるし、もう暗いからあの林を抜けるのは危ないぞ』
「危なくても行かなくちゃ!」
幸い、吹雪くような雪じゃない。
時間だってまだ九時を回ったばかりだ。
「ナギがいたら戻るように話すから、ヒロは病院で待っていてあげて」
『凛!』
なおも止めようとするヒロ。
申し訳なく思いつつも、通話を切って部屋を出ると慌ただしく階段を駆け下りる。
何事かと驚いたのか調理場から女将さんが顔を出して。
「いったいどうしたの?」
「ナギが……幼馴染が、危篤にっ……」
自分で言葉に出した危篤という響きはずっしりと重く、音にした途端、今、かけがえのない存在が遠くへ行こうとしてることをまざまざと感じさせられて恐怖を覚える。
心に絶望感が満ちて、眉を悲しげに寄せて驚く女将さんにお辞儀をして。
「私、行ってきます!」
それだけ伝えると、みなか屋を飛び出した。