「確かに呼んだんだよ。事故にあって、意識を失う直前に、願ったから」


私たちを見守る桜の木々が、風に揺れて。

触れることなく頬をすり抜けたナギの指の代わりに、花びらがかすめる。


「最後に、凛に会いたいって」


彼の願いに、愛おしそうな色を纏った儚い笑みに、泣きそうになって。

切なさに心を震わせながら、顔を隠すように俯いた時。


「最後にとか、不吉なことを言うな」


連絡していたヒロが到着した。

不機嫌そうに眉間にしわを寄せたヒロは、やはり声しか聞こえてないらしく、探るように視線を動かしている。


「早かったな、お邪魔虫」

「配達、この近くだったんだよ」


からかう口ぶりのナギに、ヒロがそっけなく答えるのを、私は少しハラハラしながら見ていた。


「相変わらずお前は家の手伝いが好きだよな 」

「……俺は、俺のやるべきことを放棄しない」

「それは俺への嫌味かよ?」


……沈黙。