瞬きを繰り返し、あ、え、と意味のない声を発して。
窓の外に見える、灰色にくすむ空を目にしながらのろのろと首を横に振った。
「そんな、私は確かに聞いたよ? 彼氏さんと電話してる時に、確かめるように私の名前を口にしてたし、それで、そのあと……」
『いらないって言ったと言うの?』
「うん……ショックだったから、良く覚えてるし」
今でも、思い出すだけで息苦しくなるほどの出来事は、忘れたくても忘れられない。
『それなら、詳しく教えて。思い出してみるから』
催促され、私はひとつひとつ記憶を再生させながら言葉に変換する。
あの日は寒くて、暖房をつけて寝ていた。
目が覚めて、喉の渇きを感じて。
お水でも飲もうと思ってベッドから降りると、扉を開ける直前に母の声が聞こえてきて、そこで耳にしたと。
電話の相手に凛のことかと尋ねたあと、全然ダメ、あの子もう全然使えないし、正直いらないわ。
そう、言ったんだよと、情けないほどに震える声で告げる。
すると、母は『ええ? なぁにそれ。夢じゃないの?』と混乱を滲ませ、やはり覚えがないようで。
母にとっては特別覚えておく程のことでもなかったのかと、うなだれた直後。
『あ、待って。もしかしたら、会社の掃除機のことかも』
「……え?」
そ、掃除機?