その無表情な顔に、私は幼い頃の彼の面影を見つけて。
「あ、の……ヒロ? ですか?」
ドクドクと心臓が暴れ始める中、勇気を出して尋ねた。
もしも違ったら申し訳ないので敬語で。
いや、よく考えたらヒロはナギと同じ年なので私より年上だから間違った対応ではないのだけど。
遠慮がちな私の声に女将さんが振り返る。
「あら凛ちゃん。ヒロ君と友達なの?」
「え、えっと、もしかしたらなんですけど」
人違いだったらごめんなさいと続けようとしたけれど。
「凛……花岡(はなおか)、凛?」
謝罪は、彼が私の名を口にしたことで紡がれることはなくなった。
「そ、そう! そうです!」
素っ気ない口ぶりだけど、穏やかさのある声は、一見、不良っぽい彼の心根の優しさを表しているようで。
「覚えててくれて良かった……」
喜びと共に心底安堵し、肩の力を抜いた私を見たヒロは、フと息だけで笑って表情を和らげた。