夕暮れの橙色が藍色へと変わる前に、私は御霊還りの社を出た。
目的地はナギが眠る総合病院。
幸いにも病院近くで停車するバスが展望台前の停留所から出ていて、私はヒロにメッセージを送ったりしながら二十分ほど待って少し早めに到着したバスに乗り込んだ。
車内では初詣帰りらしき老夫婦が、大きな紙袋から破魔矢を取り出して「大きすぎたかね」なんて会話をしている。
和やかな雰囲気なのに、私の心はほっこりするどころか切なさを覚えていた。
こうした日常に参加できないナギの現状を思うと胸が痛い。
もし、ナギが事故に遭わなければ、今頃私たちもこんな風に初詣から帰ってきていたのかな。
ナギと、ヒロと、私の三人で。
適当なことを口にしてふざけるナギに、面倒そうな顔でヒロがクールに突っ込みを入れて。
そんな二人を笑いながら見守る私。
訪れなかった今を想像して、またツキンと痛む胸。
堪えるように左肩を右手でギュッと掴んだ。
ナギが触れようとして、なんの感触もなくすり抜けた肩を。