「ナギ……戻って」
戻らないと、触れないだけじゃ済まなくなる。
だからどうか早くと願うも、ナギはゆったりとした動きで首を横に振った。
「戻り方なんて知らないんだ。気付いたら、いつも凛に会いに来てるだけだからな」
「……私?」
「ごめん。少し眠いから、ヒロには俺のことはかまうなって……言っといて」
ごめん、と。
もう一度弱々しく声にしたかと思えば、ナギは。
最初からそこには何もなかったかのように、景色に溶けて消えてしまって。
「ナギ……?」
どこを見渡してもナギの姿を見つけることができず、辺りにはただ、夕陽に染まり始め、静かに花びらを落とす桜の木々があるだけで。
「……ナギ、戻れたの?」
それは、本当に彼が魂のようなものなのだと痛感した、切なく苦しい瞬間だった。