ナギ、と声に出そうとして、けれどうまくいかずに喉の奥で息がヒュッと鳴った。

ヒロは、手が白くなるほどに拳を握り、震わせる。


「お前が、ふらふらしてるからだろっ。しっかりしろよ。あの時だって、お前がふざけたこと言って」

「しつこいぜ、ヒロ」


ナギの冷たさを感じる声が、ヒロが紡ぐ言葉をピシャリと遮った。


「お前、自分は口出しされるの嫌いなくせに、俺に構いすぎだろ」

「ナギ、俺は」

「ヒロ、お前に何を言われようと、どうするかは俺が決める」

「お前……お前は、決めるとか、決めたとか。勝手なことばっかり言ってんなよ。託されたんじゃないのかよっ。やるべき事があるのにお前はそれを無責任に放り出すのか?」


ヒロが一息に告げて吐き出すと、ナギは眉間を苦しそうに寄せて視線をヒロから逸らした。

目の前にある険悪な雰囲気に、足がすくむ。

私の記憶の中で、こんな風に喧嘩する二人は存在しない。

ナギとヒロには、二人が過ごした時間と、築いた絆があるはずで。

その中で、幾度もぶつかり合ってきたのかもしれない。

ずっと離れていた私が、二人の間にあった何かに口を挟むのは良くないのかもしれないけれど。


「……や、……て」


大切に思う二人が、これ以上こじれて苦しんでしまうのは。


「やめて、お願いだから、そんな風に喧嘩しないで」


壊れてしまうのは、心が痛い。