「落ち着けって。別に焦らなくても、今すぐ死ぬわけじゃなさそうだし」
「なんでわかる」
「だって俺、凛に触れるから」
なぁ、とナギが隣に立つ私の肩に手を乗せようとして──。
「……嘘だろ」
だけど、今日に限って、その手は私に触れることなく通り抜けてしまった。
ナギの瞳が大きく見開かれて、確かめようとまた私に手を伸ばす。
でも、やっぱり何の感触も残さずにすり抜けてしまって。
「なんで……いつもは、」
触れることができていたのに。
私の声は、ショックで喉がつかえて音にならず、飲み込んだ。
僅かな時間、沈黙が流れて。
冷たい風が吹くと、ヒロは髪を柔らかく靡かせ口を開いた。
「今朝、医者から連絡があったんだ。ここのところナギの衰弱が激しいから、覚悟した方がいいかもしれないって」
覚悟……覚悟って、何の?
衰弱が激しいから、しなければならない覚悟って、そんなの。
脳裏に、大切な人を失った時のことが思い浮かぶ。
父のやせ細った腕が私の頬を撫でて落ちた瞬間が。
祖母が最後に深く息を吸い込んで、体の力を抜いていく様が。
【死】という魂の終着点にナギが辿り着こうとしている。