「どうか、ナギの命をナギの体に繋いでください」
そしてどうか、一日も早くナギが回復しますように。
心から祈り、顔を上げる。
岩は静かにどっしりとそこにあるだけで、勾玉も特に変化が見られたりはしなかった。
……これが、現実。
都合よく奇跡なんて起こりはしない。
そんなの、わかってた。
簡単に奇跡が起きるなら、ナギだって家族を失わなかっただろうし、私も父を亡くさなかったはずだ。
……でも、それでも、奇跡を願う。
私は、ナギを失いたくない。
心の支えであるナギが同じ空の下にいると、繋がっていると思えていたから頑張れたのだ。
その時、風でザァッと冬桜の木々がしなり、上品な香りが強まって。
白花がひらひらと散る光景を切ない気持ちで眺めていたら。
「──凛」
静かにかけられたその声に、心臓が強く跳ねる。
いつからそこにいたのか。
振り返ると柔らかい笑みを携えたナギが立っていた。