ひとりで泣くことはあっても、人前で泣くことはなかったと思う。
それは、父が亡くなってからずっと。
父が生きていた頃は、幼さもあったけれど、転んだり同級生にからかわれたりする度に、ポロッと涙を零していた記憶がある。
そんな時、家では父が慰めてくれて、保育園や学校では、ナギとヒロが励ましてくれていた。
だけど、父が亡くなって島を出てからは、頑張って働く母を困らせてはいけないと、泣かないように努めた。
学校でトラブルを起こし、親を呼び出されている友人を見て、こんな風に母に迷惑をかけないようにと、できるだけ大人しくして。
風邪をひいて熱を出しても、母からもらった薬を飲んで、用意してもらったおかゆを温めて、ひとり、静かな家で寝ていた。
寂しくて、頭まですっぽりと布団にくるまり、時々涙を零しながら。
お母さんが頑張ってる。
私も頑張らなきゃ。
……そう、頑張っていたつもりが、気づけばただ我慢を重ねていただけだった。
そのことに、この島に来て、優しさに触れて、ようやく気づけた。
私は、背中に女将さんの手の温かさを感じながら、打ち明けた。
都会に馴染めず、人との付き合いもうまくなれないこと。
家に居場所がないと感じるようになり、母の愛情がわからなくなったこと。
ナギが事故に遭い、ずっと意識が戻らずにいること。
堪えてきたものを、内に閉じ込めていた不安を、幼い子供のように泣いて吐き出した。
女将さんは「辛いね、苦しいね」と私の言葉を受け止めて、最後に……。
「よく頑張ったね」
涙声で言って、私の疲れた心に寄り添ってくれた。